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弱小ベッドタウンのタクシー事情

工業団地は言われた、「自家用車あれ。」

こうして、自家用車があった。

 

駅を中心として造成された住宅街には埼玉都民が住み、田畑を遠く乗り越えた国道や県道沿いにある家々には、全国津々浦々から集った、古くからの住民には少し距離を置いて見られる工業団地通いの労働者とその家族が住んでいる。

工業団地へ通うには自動車かオートバイが必要になる。

働き続けるには自家用車を持つしかない。

皆自家用車を持たなければならないから、スーパーマーケットも車がないと行くのが億劫になる位置に建てられる。

駅の近くにスーパーはないし、休日に東京まで出ようとすると1時間はかかる。運賃も馬鹿にならない。

食料を買うために都民も自家用車を用意する。

駅の周りは地主が強いせいで駐車場ばかりになり、駅前はハリボテの都会にすらならない。

ハリボテの都会すらないのだから、居酒屋は国道、県道沿いに店を開く。

仕事が終わって、駅から工業団地から自宅へ、そしてどちらも自動車を駆って酒を飲みに来る。

運転代行は当然儲かるし、ここ5年で私のバイト先の居酒屋がある地域をカバーする運転代行は1社から4社に増えた。

 

しかしタクシーはどうか。

運転代行ばかりに客を奪われ、運ぶ客といえば駅から工業団地へ出張してくるホワイトカラーと隣の市にある場外発売場で競艇に勝った爺さんだ。

当然夜に待機するタクシーの台数は減るわけで、正月盆暮れに都心から里へ顔を出す人は居酒屋から駅へ向かおうとすると、タクシー会社の殿様商売に悩まされることになる。

 

「うちは20時までだ。」

居酒屋に対して前もってこんなことを通知してくる会社もあった。

普段、夜間の利用がほとんどないのだからタクシー会社を責めるわけにもいかない。

せめて駅前にハリボテの都会さえあれば、夜間の利用は少し増えるだろう。

…バイト先は潰れるだろうが。