クラウン・コンフォート

勤め人になって1ヶ月も経たず、私の部署の中では重要な仕事を任されるようになってしまった。とにかくコンフォートな言葉遣いや運転、都内の道路の知識、店の位置、定期的に訪れる場所、その他、その他……。

前任者があまり良くない形で辞めていったらしく、諸先輩方もその仕事を担当していなかったから引き継ぎらしい引き継ぎはなく、残された断片的なメモや地図を頼りになんとかこなしてきたつもりだったのだけれどどうやら思い込みに過ぎなかったらしい。

とうとう小言を言われるようになり、ぞんざいな扱いを受けるようになってしまった。周りにきいてもピンとくる答えは返ってこない。どうしようもなく辛くて、駅から家までの15分歩くのですら嫌気がさした。タクシーを拾って自宅の最寄りのコンビニまで乗った。寸詰まりのクラウン・コンフォートだった。その名に恥じず、不快な振動や遠心力を感じることもなく、運転手さんも物腰柔らかい感じの良い人だった。

車の中という、限られた例外を除けばごく狭い空間の中でたった1人だけ威圧的な人間がいればそれだけで他の人たちは肩肘を張って緊張を強いられる。少し大きな路線バスでも。あの緊張の中ではせめて目的地までは安全に、せめてマナーだけは守ろう…これだけしか考えられない。威圧でこれらのうち1つでも潰されてしまったらもう頭の中は真っ白、ただ車を真っ直ぐに走らせることしかできなくなってしまう。

先方が知っていて私が知らない場所に案内してもらうとき、交通法規を無視した指示を受け、法規には逆らえないと控え目に出ても結局は私の勉強不足ということにされる。他の仕事をきっちり仕上げてもただ1つの地点に要領よく着けなかった、何も情報がなくても私が全て責任を持つしかない。私しか持てない。