北帰行
K君が九州に行けないかもしれないと言い出したから、机上で大阪に行ったり北海道に行っていた。
中学生の頃から、机上旅行をしてしまうとついついそれを現実にしたくなる節がある。
そして只見線に乗ってしまった(現在は不通区間があるから乗っておいて良かったと思っている)。
高校を中退してやけくそになって日本三景をまわり、西成をブラブラしていたのも時刻表のせいであった。
松島、天橋立、宮島と来て西成で串カツを食らい、1泊1400円のドヤ(というよりはバックパッカー宿)で中東系の男に睨まれたが、一番落ち着いていられたのは美しい景気の中よりも新今宮駅のガード下だった。
ホームレスのおっちゃんがギターを弾いていて、それを聴いてるホームレスが「よっ、○○ちゃん!」とモクをふかす。
スーパー玉出でアルミホイルに入ったどて焼きと1尾49円の海老天を買って、ドヤに設置してあったガスの自販機に100円玉を入れて、温めて食べた。
食い物だけは、西成は天橋立のブリには勝てなかったようだ。
今度行くときは酒が飲めるようになっているから、「今日の仕事は辛かった…あとは焼酎をあおるだけ…」を西成でやってみるのもいいかもしれない。
今年の夏に行って鬱状態を悪化させてしまった道東旅行も元々は机上旅行だった。
釧路を足掛かりにして根室や釧路湿原を見て回った。
湿原を見るために塘路駅で降りて、喫茶店がレンタサイクルをやっていたからそれを借りてコッタロ湿原を見渡せる展望台まで40分くらいかけて行った。
果たして眺めは最高だった。
レンタサイクルのおまけでついてきた双眼鏡を覗くとエゾシカの親子が佇んでいて、私もあの親のもとに生まれたかったと羨んだ。
来た道を戻って駅に近い展望台に行くと、大学のサークルらしき集団を見て辟易した。
オタサーの姫なるものもそのとき初めて見た。
あまり近づきたくなかったから、シラルトロ沼のほうへ向かった。
クロスバイクに乗った集団とすれ違って、レンタサイクルに乗っている私をジロジロと見ていた。
途中で見つけたレストランに入ったものの、マスターとの会話が弾まなかった。
駅に戻るまでずっと右側にいたシラルトロ沼だけが私の支えとなっていた。
次の日、根室を訪れてカニを食べていた。
カニ屋は家族経営らしく、居間なのか店なのかよく分からないところでおばちゃんやらお兄さんやらに話しかけられたのだけれども、私はそれを剣豪のごとくばっさりと途切れさせた。
しかしカニは500円なのに美味しかったし、あまり会話が弾まなかった相手にも(営業だろうが)「また冬に来なよ」とおばちゃんは言ってくれた。
その言葉に引き付けれらたのかどうかは分からないが、机上の私は根室本線を西へと突き進んでいた。